ア・デイ・イン・ザ・ライフ
携帯電話もインターネットもなかった頃の話である。 大学を出てすぐ、私はある田舎の中学校の期限付講師の職を得た。出たのは国文科だが、英語の授業を受け持った。鬱病で療養休暇に入った若い教諭の代わりだった。 楽しい日々だったが、終わりは突然やって来た。 忘年会の宴席で、私は教頭に声を掛けられた。そのまま廊下に出て、立ち話になった。 「や、山口くん」教頭は言った。彼は言いにくい話の時は吃音が出た。「じ、実は君には十二月いっぱいでうちを辞めてもらう」 「どういうことですか?」 「Fさんが復帰するんだ」鬱病で休んでいる教諭の名前を挙げて、教頭は言った。「こ、これは、き、決まったことなんだ」 どうしようもない。受け入れざるを得なかった。分かりました、とだけ言って私はその場を離れた。 「教頭に何を言われたの?」 席に戻ると、学年主任に訊かれた。私は教頭に言われたままを話した。 「何なの? ここで言うべき話じゃないでしょ」 私もそう思った。憤慨してくれた人がいただけありがたかった。 私はその晩、べろべろに酔っ払った。 週明けの朝、私は校長室に呼ばれた。校長は椅子に座ったままこう言った。 「教頭さんが言ったとおり、そういうことになったから」 それだけだった。私は一礼して校長室を出た。 さすがに気が引けたのだろう。二学期の終業式の日に離任式と送別会を開いてくれた。生徒から別れの言葉をもらい、送別会ではしたたかに飲んだ。 幸いなことに、夏に受けた県の教員採用試験で奇跡的に内定が出ていた。四月からの仕事は決まっている。降ってわいたように、三か月間の自由な時間ができたことになった。意外なことに退職金も出た。せっかくだから、何日か旅行に行くことにした。 正月明け、中学校の同窓会があった。隣の市の駅前にあるホテルが会場で、昼過ぎから行われた。私の中学校は全部で二クラス、七十人しか同級生はいない。そのうちの五十人近くが集まった。 幹事の挨拶、担任の先生からのお言葉、そして乾杯。型どおりに会は始まった。酒が回り出した頃、一人ずつ近況報告があり、私は仕事を辞めたこと、これから旅行をしようと思う、といったことを喋った。 円卓の隣はキヨミだった。同じ小学校に通った幼なじみである。皆の近況報